ここのところ、福島第一原子力発電所に関するニュースで放射性物質に関する情報がひっきりなしに飛び交っています。マスコミも理解が曖昧な場合が多々ありますので、最終的には何が危険で何が安全か、自分で理解して判断できるに越したことはありません。とは言っても、こういった知識は大学や仕事で関わっていない限りなかなか触れる機会のないものですので、ニュースの文面に現れる単位に注目しながら理解していきたいと思います。
シーベルト(Sv)について
2011年3月15日 NHKニュース
福島第一原子力発電所から南に110キロ余り離れた茨城県東海村にある東京大学の施設では、午前7時46分に、放射線の値が毎時5マイクロシーベルトを観測し、10分間継続して通報の基準値の5マイクロシーベルトを超えたため、午前8時15分までに国に対して原子力災害特別措置法に基づく10条通報をしました。現在の放射線量は毎時3マイクロシーベルトになっているということです。この場所での通常の放射線量は、毎時0.05マイクロシーベルトだということです。
まず、ニュースで最もよく出てくる単位が『シーベルト(Sv)』です。これは、『放射線を体に受けた際の、生体への被曝の大きさ』を表します。要するに、この数値を見れば「どの程度人体に影響が現れるのか」が分かります。以下の表(Wikipediaより引用)は、受けた実効線量(mSv)と、それがどのような意味を持つのかを表しています。単位にご注意下さい。
1(Sv)=1,000(mSv)=1,000,000(μSv)
実効線量(mSv)とその意味
| 実効線量(mSv) | 内訳 |
| 0.05 | 原子力発電所の事業所境界での1年間の線量。 |
| 0.1-0.3 | 1回の胸部X線撮影。 |
| 0.2 | 東京とニューヨーク間を航空機で1往復。 |
| 1 | 一般公衆が1年間にさらされてよい人工放射線の限度(ICRPの勧告)。放射線業務につく人(放射線業務従事者)(妊娠中の女子に限る)が妊娠を知ったときから出産までにさらされてよい放射線の限度。 |
| 2 | 放射線業務従事者(妊娠中の女子に限る)が妊娠を知ったときから出産までにさらされてよい腹部表面の放射線の限度。 |
| 2.4 | 1年間に自然環境から人が受ける放射線の世界平均。 |
| 4 | 1回の胃のX線撮影。 |
| 5 | 放射線業務従事者(妊娠可能な女子に限る)が法定の3か月間にさらされてよい放射線の限度。 |
| 6.9 | 1回のCTスキャン。 |
| 7-20 | X線CTによる撮像。 |
| 10 | 日本国原子力安全委員会の指針では一般人の「屋内退避」
ブラジル・ガラパリの1年間の自然放射線。 |
| 50 | 電離放射線障害防止規則による放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が1年間にさらされてよい放射線の限度。日本国原子力安全委員会の指針では一般人の「避難」。自衛隊・消防・警察(妊娠可能な女子を除く)が1年間にさらされてよい放射線の限度。 |
| 100 | 電離放射線障害防止規則による放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が法定の5年間にさらされてよい放射線の限度。
電離放射線障害防止規則による放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が1回の緊急作業[2]でさらされてよい放射線の限度。 |
| 250 | 白血球の減少。(一度にまとめて受けた場合、以下同じ) |
| 500 | リンパ球の減少。
国際放射線防護委員会による人命救助を例外とする上限。 |
| 1,000 | 急性放射線障害。悪心(吐き気)、嘔吐など。水晶体混濁。 |
| 2,000 | 出血、脱毛など。5%の人が死亡する。 |
| 3,000-5,000 | 50%の人が死亡する。(人体局所の被曝については3,000:脱毛、4,000:永久不妊、5,000:白内障、皮膚の紅斑) |
| 7,000-10,000 | 99%の人が死亡する。 |
おおよそ250(mSv)を超えたあたりから健康に影響が現れるのが分かります。先程のNHKニュースでは5(μSv)=0.005(mSv)とのことでしたので、一見全く問題ないように見えますが、これはあくまでも「1時間あたり」の実効線量です。総被曝量は単位時間あたりの実効線量を時間で積分する必要がありますので、この5(μSv)を1年間浴び続けると、単純計算で
0.005(mSv) × 24(時間) × 365(日) = 43.8(mSv)
の放射線を浴びることになります。一度に受けた場合とは事情が異なりますし、実際には服や住居による遮蔽の影響も大きいですが、少なくともこの地に定住するにはかなり憚られる線量であることは間違いありません。
もう一つ重要なのが、『放射線は距離の2乗に反比例して減衰する』ということです。つまり、2倍の距離離れると放射線量は1/4になります。先程のニュースは福島第一原子力発電所から110(km)離れた場所での測定でした。放射性物質自体が風に流されてきた可能性が高いですが、仮に「線源が福島第一原発」だとすると、半分の55(km)地点での放射線量は110(km)地点の4倍と考えられますので、「原発から55(km)地点で1年間暮らした場合」の被曝量は、
43.8(mSv) × 4 = 175.2(mSv)
となります。健康に影響が現れる基準である250mVにかなり近づいてしまいました。「たかが5(μSv)」と侮れない理由が分かります。
グレイ(Gy)について
2011年3月18日 産経ニュース
東京電力福島第1原子力発電所の放射能漏れで、福島市内で測定した放射線値が減少傾向にあることが17日、県のまとめで分かった。同日午後10時に発電所から約60キロ離れた福島市内では12.9マイクログレイを測定した。午前2時には14.8マイクログレイを測定していた。市内では15日に1時間あたり通常(0.04マイクログレイ)の500倍近い20マイクログレイ前後に達していた。
グレイ(Gy)というのは、物質が放射線に照射されたときの吸収線量(J/kg)を示します。先程のシーベルトは「生体への影響度合い」を示していましたが、グレイはあくまでも「放射線を浴びた量」を表します。放射線にもα線やγ線、中性子線など、さまざまな種類があり、どの放射線を浴びるかによって人体への影響が大きく異なります。グレイに「放射線の種類とエネルギーによって決まる『線質係数(生体への影響度)』」を掛けたものがシーベルトというわけです。
シーベルト(Sv) = グレイ(Gy) × 線質係数
線質係数
| 放射線の種類とエネルギー | 線質係数 |
| γ線/X線 | 1 |
| 電子/μ粒子 | 1 |
| 中性子(10keV未満) | 5 |
| 中性子(10keV-100keV) | 10 |
| 中性子(100keV-2MeV) | 20 |
| 中性子(2MeV-20MeV) | 10 |
| 中性子(20MeV以上) | 5 |
| α粒子/核分裂片/重原子核 | 20 |
上の表のように、同じ1(Gy)でも線種によって係数が大きく異なる(=人体への影響が異なる)ことが分かります。前述のニュースで「1時間あたり20(μGy)」と説明されていますが、これが仮にγ線であれば係数は1ですので、
20(μGy) × 線質係数 1 = 20(μSv)
ですが、エネルギー10keVの中性子であれば係数10を掛けて
20(μGy) × 線質係数 10 = 200(μSv)
となります。毎時5(μSv)でも年換算するとかなり大きな値になりましたから、毎時200(μSv)なんて大変なことです。(が、実際はほとんどの放射線がγ線だと思われますので、あくまでも仮定の計算です)
ベクレル(Bq)について
2011年3月23日 NHKニュース
厚生労働省によりますと、新たに検出されたのは、いずれも、21日、福島県と茨城県で採取されたあわせて11品目の野菜です。このうち、▽福島県本宮市で生産された茎立菜(くきたちな)という葉物野菜からは国の暫定基準値の164倍に当たる8万2000ベクレルの放射性セシウムが検出されました。また、いずれも福島県の▽川俣町で生産された信夫冬菜(しのぶふゆな)という葉物野菜からは基準値の56倍に当たる2万8000ベクレル、▽西郷村の山東菜(さんとうな)からは基準値の48倍に当たる2万4000ベクレル、さらに、▽飯舘村産のブロッコリーからは基準値の27.8倍に当たる1万3900ベクレルのそれぞれ放射性セシウムが検出されました。
ベクレル(Bq)とは、放射性物質が一秒当たり何回崩壊しているのかということを示し、例えば1Bqなら1秒間に1個の原子が崩壊しています。シーベルトとグレイは「放射線を受ける側」の目安でしたが、ベクレルは「放射線を発する側」の単位であり、物質が発する放射能の大きさを表します。上に引用したのは野菜から放射性物質が検出されたとのニュースですが、この野菜が体内にあるか、近くに置いてあるだけか、近所のスーパーにあるか、また大きさはどのくらいか等の条件で人間が浴びる放射線量は変わるため、シーベルトやグレイでは表現できず、「ベクレル」という単位を使っているわけです。
で、問題はこの野菜を食べるとどれだけ人体に影響を及ぼすかです。これに関しては、放射性物質を摂取したときに体内からどれだけ被曝するかを計算するための「実効線量係数」というものが求められています。実効線量係数は核種(放射性物質の原子核の種類)によって異なります。この係数をベクレルに掛けることで、シーベルトが求められます。
シーベルト(Sv) = ベクレル(Bq) × 実効線量係数
実効線量係数
| 核種 |
半減期 |
経口摂取(Sv/Bq) |
吸入摂取(Sv/Bq) |
| I-129 |
1570万年 |
1.1×10-7 |
3.6×10-8 |
| I-131 |
8.04日 |
2.2×10-8 |
7.4×10-9 |
| I-133 |
20.8時間 |
4.3×10-9 |
1.5×10-9 |
| Cs-134 |
2.06年 |
1.9×10-8 |
2.0×10-8 |
| Cs-136 |
13.1日 |
3.0×10-9 |
2.8×10-9 |
| Cs-137 |
30.0年 |
1.3×10-8 |
3.9×10-8 |
上のニュースでは「放射性セシウム」とだけ書かれており、質量数がハッキリしません。が、仮にCs-137だと仮定して、82,000Bqの放射性セシウムが検出されたという茎立菜を1年間、100gずつ食べ続けた場合の被曝量を計算してみます。また、単位量(gなのかkgなのか)も書かれていませんが、こういったニュースでBqを議論する場合はBq/kgである可能性が高いそうです。
82,000(Bq) × 0.1(kg) × 実効線量係数 1.3×10-8 × 365(日) ≒ 0.0389(Sv) = 38.9(mSv)
実効線量係数は、元素の半減期や残留期間も加味した上で求められていますので、この計算で総被曝量を求めることができます。確かに健康に害を及ぼす250mSvとまではいかないとは言え、あまり進んで食べようとは思えない数値ですね。
補足
結局よく分からなかったよ!という方のために。おおよそこんなイメージで考えれば良いと思います。ものの例えなので、もちろん大いに語弊がありますが。
| ベクレル(Bq) |
一定面積内の敵の軍隊が持っている銃が1秒間に銃弾を発射する回数。それが大砲かマシンガンかは問わない。相手に命中するかどうかも問わない。5丁のマシンガンが1秒に10発づつ銃弾を発射すると50(Bq)、50門の大砲が1秒に1発発射しても50(Bq)。100人の子供が2秒に1回スーパーボールを投げても50(Bq)。1000匹の(しつこい)
|
| グレイ(Gy) |
軍隊から発射された銃弾が、一定重量の「箱」を弾き飛ばす力。当然、重くて速い弾丸の方が箱はよく飛んでいく。10kgの砲弾が秒速60mで飛んできて1kgの壁にぶつかったら、1/2×10×602=180(J/kg)=180(Gy)。飛んでくる銃弾が大砲かピンポン玉かお手玉かは関係ない。
|
| シーベルト(Sv) |
軍隊から発射された銃弾が、「人間」に与えるダメージ。重くて速い弾丸の方が殺傷能力が高い傾向はあるものの、それが仮に遅くても鋭利な銃弾だったり毒ガスを含んでいたりするとダメージは大きいし、いくら速くても柔らかいお手玉だったりしたらダメージは少ない。1時間に飛んできた銃弾の合計が180(Gy)だとして、それがお手玉(係数0.1)であればダメージは180×0.1=18(Sv)。それを10時間受け続けるとやはり180(Sv)のダメージ。
|